「ペテロの葬列」(集英社)で宮部みゆきが書きたかったこと

画像
 (謎解きにウェートを置いていない)ミステリーは好きで、特に宮部みゆきは好きな作家の一人だ。登壇した時の「魔術はささやく」以来単行本はすべて読んでいる。本作も発売後まもなく読んだ作品だが、本のキャッチコピーやネットの書評(宮部作品としては珍しく不評)が少しずれている(例えばこの作品で、シリーズが終わるのではないかとか)ように感じられたので、改めてここに私の感想というか、この作品に関しては読み方(予想)を記しておきたい。



まずはキャッチコピーの紹介から。「拳銃を持った老人によるバス・ジャック事件が起きる。・・・・・。
事件の真の動機の裏側には、日本という国、そして人間の本質に潜む闇が隠されていた。果てしない闇、そして救いの物語。」
 「悪は連鎖する」
というのもあった。



 確かにこのキャッチコピーは間違ってはいないのだが、これが作者の書きたかったことだと考えるにはかなり違和感がある。つまり20年位前に、関西で起こった幾つかの悪徳商法事件の黒幕を探っていくと、例の「豊田商事」の関係者が暗躍していたということが話題になったことがあった。だからバスジャック事件の背景に悪徳商法事件(別の名前にしてあったが明らかにそれと分かるようになっている)があったというのはあり得る話なのだが、「火車」で時代の最先端を行く形で、多重債務問題を切り取った作者が、事件の中心に悪徳商法団体の参謀というかインストラクターを設定した点が新しい工夫といえば新しいのだが、そんな良く知られた古い話を今さら書きたかったのだろうかという疑問は付いてまわるのだ。



 そして何より語り口が巧いのは相変わらずなのだが、この辺りは全然筆が踊っていないのだ。筆が踊り出すのは主人公の杉山三郎の個人的な領域でなのだ。結局作者が書きたかったのはバスジャック事件の方ではなく、菜穂子との関係ですべてを失い傷ついた「訳ありの探偵の誕生」の話と考えると全編が巧くまとまるのだ。


 

 ミステリーの定番として、訳ありでどこか影のある探偵が主人公となる作品は、数多いし、またその主人公は意外な世界の有力者とコネを持ってたりする設定になっている。また影として暗示されたその傷の内容は大抵回想シーンで少しほのめかされたりするだけなのだが、作者の宮部みゆきは確かに最初はバスジャック事件を書こうとしたはずであるが、途中からはこの「ペテロの葬列」で今までありそうで無かったその訳あり探偵の訳ありの部分の誕生秘話を書きたくなったのではないだろうか(だからネットで不評なのは構想が途中でぶれている(新聞小説だけにあり得そうだ)からではないのか)。確かに完成度という意味では失敗作には違いないと思う。そして作者自身の「いまいち感」が最終場面で予定調和的な「めでたしめでたし」とならず、菜穂子の破壊的な行動を描かせたと考えるのは、うがちすぎだろうか?



 私立探偵杉村誕生後の今後を考える、と杉村と今村財閥の会長との関係なんか、意外性があってなかなか楽しく使えそうだし、菜穂子も新手の悪女として面白い存在になりそうだ。



 もしこれらの推測が正しければ、この杉村三郎シリーズはこの作品で打ち切られるどころか、「誰か」から3年で「名もなき毒」それから7年後にこの「ペテロの葬列」が書かれたわけだが、多分今度は3年以内にシリーズ新作が出るに違いない。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 9

なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー)

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック