今更の直木賞ー黒川博行「破門」はハードボイルドではないー

 今回の直木賞受賞が黒川博行の「破門」に決まったという。黒川博行に関しては約30年前に、3作目の「キャッツアイころがった」が面白かったので、遡って前2作も読んで、以来単行本もすべて読んでいる黒川ファンである。だから今更黒川博行が直木賞を貰っても私の読書生活にはあまり影響がない。ただ直木賞については、昨年「ホテルロイヤル」が直木賞を貰ったのをきっかけにして、読んで以来すっかり桜木紫乃ファンになったので、賞の存在価値自体を否定する気は全然ない。


 ただ、今回の受賞に関してはもう少し何とかならなかったのかなと思う部分がかなりあるので、その部分をまとめておきたいと思う。
 まず今回の「破門」は「疫病神シリーズ」の第5作なのである。先ず賞の存在価値は作者自身に対しては、その作品自体や或いは目指す方向を肯定する、支持して背中を押すことにあると思う。それがシリーズの第5作目!
シリーズ物は一般に2作目か3作目が最高で、その後は、段々レベルが落ちてくるのが普通で、この疫病神シリーズは健闘しているとはいうものの、やはり徐々にパワーダウンしていることは否めないので、ユニークさもパワーも全開だったシリーズ2作目の「国境」(直木賞候補になっていた)辺りで受賞というのが、やはり一番自然だったと思う。


 また、「破門」をシリーズの前作を読まずに直接読んだ場合、それ程前作を読んでないから理解できないという部分は多くないにしろ、微妙に味わいが浅くなるのは避けられないと思う。だから今回の受賞はシリーズの5作目だけを読んで評価されるというリスクを背負わされるということになってしまう。
 それに年齢からいっても、50歳位で受賞するのと64歳で受賞するのとではまるで賞のイメージが変わってしまったと思う。


 もう一つ気になったのが、次に引用する日経新聞の受賞を伝える記事である。

「受賞作は、建設コンサルタントの二宮と暴力団組員の桑原を主人公とした「疫病神」シリーズの5作目。暴力団対策法が施行されたことなどで「食えない」(黒川氏)時代のなか、組員や詐欺師が悪知恵や暴力でしのぎを削るハードボイルド小説だ。」

 恐らくこの記事を書いた人は「破門」を読んでいないのではないか(文芸部担当で一人くらい読んだことのある人はいなかったのか?)。もし読んでいれば、「破門」に対し世間で言われているままのハードボイルド小説というレッテルは貼らなかったはずだからだ。確かに黒川博行は初期の頃ハードボイルドといってもよい作風を試みていた時もあったのは事実である。しかし数冊の試みだけで終えて、徐々に現在の会話にウェートを置いた作品にシフトしてきた。


 何といってもこの「疫病神シリーズ」(黒川博行)の魅力は、二宮と桑原の腐れ縁というか、お神酒徳利の掛け合い漫才のようなやり取りが、他のミステリーと一線を画しているところにあるのだから。

例えば
「銀行ぐらい、ひとりで行ってくださいよ」
「わしは極道やぞ。おまえは堅気や」
「堅気の装りして行ったらええやないですか。髪を七三に分けて、ビジネススーツ着て」
「どの口がそういう戯言ほざいとんのや」
桑原は眉からこめかみにかけて伸びた傷痕を撫でる。「わしはこの顔が代紋じゃ」
「ま、否定はしませんけど」

というユーモラスというより、多少アクの強い掛け合い漫才のようなやり取りと、二宮の「巻き込まれ振り」が全編に満ちているところが楽しいのだから。誰も黒川博行にハードボイルドなど期待していない。


 余談ながら黒川博行の大阪府警シリーズも楽しい。やる気のないサラリーマンのような刑事を描いて、リアリティ抜群だ。同じくリアリティ抜群の横山秀夫の体育会系の刑事、その体育会系の世界に合理主義を持ち込む今野敏の「隠蔽捜査シリーズ」、佐々木譲の真面目でシャープな刑事、大沢在昌の一匹狼の探偵のような孤独な影のある刑事、を読み比べてみるのも楽しい(※)。



(※)「今警察小説が面白い」(2010・1・1)参照






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